Tana’s ファンタジー短編小説


「高台の家に住む猫」                               Tana Yamada 

                                                   2014/10/20  

 

ミュウは高台の広い家に住んでいる猫の女の子。

ミュウは生まれてからすぐご主人のリオ様に引き取られて、それから彼女はずっとこの裕福な家庭でなに一つ不自由なく暮らしている。

 

ミュウは毎日ぽかぽか陽が差し込む窓際に座って、目の前に広がる山々を眺めていた。この山の下になにがあって、どんな人たちが住んでいるのかなんてミュウは知りたいと思ったことは一度もなかった。

 

そんなある日、山の下から一匹のしっぽ(尻尾)の長い猫が上ってきた。

ご主人のリオが窓を開けて餌を与えると、その猫が長いしっぽを振りながら部屋のなかに入ってきた。


猫は餌をそっと食べて、ミュウとご主人の周りを数回まわったあと、両足をそろえて座ってミュウの顔をじっと見つめた。ミュウはよそ者にこんなに見られるのは初めてだったので、恥ずかしくて顔を逸らした。

 

次の日もしっぽの長い猫がまた高台のミュウの家にやって来た。

ご主人のリオ様はいなかったので、ミュウが窓を開けてあげると、その猫が家の中に入ってきて、おいてあったミュウの餌を無言で食べて、それから家のなかを見回った。

「どうしてなにも言わないの、あなたの名前くらい教えてくれてもいいじゃない。」

ミュウは聞いてみた。

「オセロだよ、前の主人が付けてくれた名前だ」

「オセロ、男の子だね、前の主人って、いまは違うご主人なの?」

「そうだよ、いまは違うよ、っていうかもう主人なんかいらないから」

オセロはいくらか怒ったようにミュウを見返した。

ミュウはなにかいけないことでも言ってしまったのかと、ちょっとだまった。

オセロは家の中を見回りながら、

「きみは、毎日こんな生活をして、退屈だと思わないのかい?」

「アタシ、生まれてからずっとここに住んでいるから、退屈って感じたことは一度もないわ」

「一度もないわ」(ミュウの口調をマネして)「いかにも世間知らずの箱入り娘だね。」

「箱入り娘って、なんのこと?」

「きみのような猫ちゃんのこと言うんだよ、ご主人に愛されてすぎて、外の世界を全然知らない猫のこと」

「へえ~、それを箱入り娘って言うんだ・・・・」

「きみ、ネズミをみたことがあるかい?」

「リオ様から聞いたわ、山の下に住んでいる猫たちはネズミをとって暮らししているって」

「ハハハッ!それを信じるかよ、笑って死んでしまうよ、ハハハッ、」

オセロは口を大きく開けて、お腹を押さえながら笑った。

「きみと話しているとほんとうに面白いよ、なにも知らないんだから」

「ごめんなさい、アタシなにか変なことでも言った?」

そんなに笑うオセロをみてミュウはちょっと恥ずかしくなった。

「いいんだよ、ぼくも昔はきみと同じだったから。ご主人さまに愛されすぎてね」

オセロはそういいながら、ミュウがふだん座っている安楽椅子に上って、なんの違和感もなくとてもなれた感じで体をゆだねて、椅子をゆっくり揺らして目を閉じた。

「そう、こういう生活も悪くないけど、こうやって目を閉じて一生を過ごすんだよね。時々すごく退屈を感じないかい」

「オセロのご主人はあなたが外に出ても構わないの?」

「ぼくの主人?ぼくはいまネズミが仲間だよ、いま彼らと共同生活をしているんだ」

「ネズミと?!共同生活ですって?!」ミュウは思わぬ大声を出してしまった。

オセロは閉じていた目を半開きでミュウを横からみて、

「きみはほんとうに世間知らずもいいところだ。いまどんな時代になっているか知らないのか、猫がネズミを捕まえて食う時代はもうとっくに過ぎたんだよ。いまはみんなが共存する時代なんだ、分かる?お嬢様」

「共存する時代?」ミュウはだんだん物知りのオセロに敬意を払い始めた。

「そうだよ、お嬢様。ぼくらの村ではネズミは大事な仲間だ、いま僕たちは一緒に困った人や動物のことを助ける「猫の爪ネズミの歯組合」を作ったのさ。この間も洞窟に落ちた熊さんを我々で助けたのさ」

「へえ~、格好いい!人助けっていいことだね。だけど猫とネズミが熊を助けるって、ちょっと聞いたことのない話だけどね」

「それは聞いたことがないのさ、お嬢様。猫には鋭い爪があるでしょう、ネズミには丈夫な歯があるでしょう、このコンビはどの人間が作った機械よりも優れているよ。固い土屋根や、樹の根っこをとことん掘っていくのさ」そういいながら、オセロは前足で土を掘る格好をして見せた。

「ぐえ~っ!ぐえ~っ!こんな感じで、物凄い勢いで土を掘っていくの」

「すごい!ほんとうに機械のようだね」

「そのうち、一度僕たちの村に来てごらんよ、きみの知らないものがた~くさんあるから」

「アタシは家を出たことがないから、遠くへ行けないのよ」

「そんな生活、ぼくには想像つかないな。あんな天国の暮らしを知らないで死んでいくなんて、きみはなんて可哀そうな人生を送っているだろう」自慢をしているオセロをみて、ミュウはちょっと腹が立ってきた。

「なら聞くけど、そこが天国だったら、どうして家にくるといつもお腹を空かせて、アタシの餌を片っ端から食べるの?もしかして、その山の下の村の食べ物がぜ~んぶネズミに食べられちゃって、猫が食べ物に困っているんじゃないの?」

「きみもいうね、鋭い感だ、だけど、そういうことじゃないんだ、残念ながら」

オセロはお腹をまるく出して、日差しのなかで気持ちよく長い背伸びをした。

「これが気持ちがいいんだ、ぽかぽかの日差しに晒されてね、あぁ~眠いっ~」

「話を逸らさないでよ、その村に食べ物があるの?」

「それはあるさ、イチジクでしょう、桑の実でしょう、アケビでしょう、うん、そうだ、落花生もあるんだよ、人間がつくって収穫にこない落花生をぼくたちが収穫するのさ。落花生の収穫って、みたこともないだろう、一つ引っ張ったらたくさ・・・・」

 

安楽椅子でくつろいでいたオセロは突然飛びあがって、

「やばいっ!きみのご主人様が帰ってきたみたいだ、帰らなくちゃ。ぼくは後ろのドアから逃げるから、ぼくが来たってご主人様に言わないで」

「レオ様はあなたが来ることを喜んでいるのよ、どうして言わないでっていうの?」

「またくるから、次に話すね、バイバイ!」

そう言いながら、一瞬にしてオセロは夕方の野原に姿を消した。

 

つづき・・・・


続きをお読みになる方は次回の発表を楽しみしてくださいね^^@・・・・